One-Person Think-Tank BK-Yoo

「日本政府のクラスター論を根拠にした、無症状者の追跡不要論」への批判

2020-11-11 Wednesday
2020-11-11

同じタイトルで、私が参加している研究グループのホームページに、PPTスライドを掲載しました。このPPTスライドを理解する一助として、私のTwitterアカウントに、以下の要約を掲載しました(https://twitter.com/bk_yoo202011820:22)。Twitterのスレッドは、読みにくそうなので、一つのエッセイの形として、ここにも掲載します。

(1/11) 202011月現在まで、日本政府の新型コロナ・パンデミック対策は、世界標準から大きく逸脱し続けています。この対策についての批判を、私が参加している研究グループのホームページに掲載しました。以下でその要点を紹介します。https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20201025-2.pdf 

(2/11) マクロ経済を改善するため、先進国クラブとも呼ばれるOECDが、5月に出したレポート、「COVID-19検査:外出制限措置を解除するために」(日本語版あり)があります。ここで提唱されている対策は、11月現在まで世界標準です。https://www.oecd.org/tokyo/newsroom/ja%20Testing%20for%20Covid%20may%204%20rev.pdf 

(3/11) この世界標準の対策は、「無症状者も対象とするPCR検査の拡大、感染者の隔離、感染者の追跡による感染経路の特定」です。8月に出た欧州CDCのレポートの提言も同じです。これらのOECDと欧州CDCのレポートでは、韓国の検査体制をモデルケースとして紹介しています。https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/covid-19-population-wide-testing-country-experiences.pdf 

(4/11) 一方日本政府は、下記の押谷論文を根拠に、クラスター対策のみで十分であり、「無症状も対象とするPCR検査の拡大は不要」との立場です。この日本政府の主張の不可解さを説明するために、例えとして「ラーメン定食は禁止すべき」を用います。https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/advpub/0/advpub_JJID.2020.363/_article 

(5/11)日本政府の主張は、「ラーメンが美味しいエビデンスがあるので、チャーハンは食べてはいけない。よってラーメンとチャーハンが一緒に出てくる『ラーメン定食は禁止すべき』」と同じです。

(6/11)この主張の根拠として、「チャーハンそのものが有害」または「『食い合わせ』が悪いので、ラーメンとチャーハンを同時に食べると有害」というエビデンスが必要です。しかし、これら2つのエビデンスを、日本政府は示していません。従って、私の意見は「ラーメン定食を禁止しなくても良い」です。

(7/11)このラーメン定食の例における「ラーメンがクラスター対策」に、「チャーハンが無症状者に対するPCR検査拡大」に相当します。日本政府が根拠とする先の押谷論文は、「無症状者に対するPCR検査拡大」そのものの弊害も、「食い合わせ」に伴う弊害も、エビデンスとして示していません。

(8/11) 結論です。「クラスター対策の実施」と「感染源である無症状の⼈へのスクリーニングPCR検査」は、別次元の問題ですので、同時に実施することは全く問題なく可能。むしろ、同時に実施する方が、感染対策としてより有効です。この根拠として、新しいSystematic Review論文を紹介します。

(9/11)先ず、総論から。政策論拠として僅か1本か2本の論文(特に一次データのサンプル数の少ない研究)のみを用いるのは危険であることに留意して下さい。以下のBuitrago-Garciらによる論文は、79本(!)もの論文をまとめた分析を行っています。https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1003346 

(10/11)この論文は、「全感染者中、常に無症状の感染者の割合は20%-31%」、感染力の強さは、有症状者に比べ、「常に無症状者は約3分の1(0.35)」、「発症前の感染者は約3分の2(0.63)」と推定しています。これらのデータを基に私が計算すると、感染源の約25%が無症状者です。この25%を無視できますか?

(11/11) 感染源の割合に関する私の計算方法(概念)の詳細は、早稲田大学 現代政治経済研究所のワーキングペーパーとして公表した拙論文「新型コロナウイルスの無症状者に対するPCR検査の費用対便益分析」を参照ください。この論文の要約についても、近日中に紹介します。https://www.waseda.jp/fpse/winpec/assets/uploads/2020/10/J2002-1_version_p6_corrected.pdf 

(2020-11-11 16:42)